マリのティンブクトゥ(トンブクトゥ)を舞台にした映画『Timbuktu(禁じられた歌声)』について、先日この欄で書いたところ(「マリ北部紛争を描いた映画『禁じられた歌声』が描くイスラーム世界のバベルの塔」2016年12月10日)、フェイスブック上でつながっている福井慶則さんが、現地の言語・民族状況について隅々まで行き届いた文章を記して応えてくださった。私には勘の乏しい、ニジェール河からサヘル付近の民族・言語分布や職能集団の分化といった社会構造が、より精細に見えてきます。本欄の読者にとっても有益と思いますので、以下に転載します。転載を快くご許可くださった福井さんに感謝いたします。

 

福井慶則さんのフェイスブックより(12月12日)

Satoshi Ikeuchiさんが、映画 ”Timbuktu” について学園祭トークをされ、その補足としてフォーサイトにこの映画について書かれていた。

あの映画は、自分や妻とその部族の経験そのものだ。

1980年代、トンブクトゥの近くに住むトゥアレグに弟子入りして、彼らのキャンプ地に住み込んで言葉や暮らしを学び、その後、モーリタニア、マリをラクダで旅し、現地で働き、トンブクトゥ地方のトゥアレグの妻と結婚した。
それから今日に至るまで、多くの家族や友人が、トンブクトゥやその近隣で殺された。しかしその多くは、イスラーム主義過激派による直接的なものでなく、過激派武力集団の構成員と同じアラブやトゥアレグであるというだけの理由による、黒人系の軍人や地域住民によるものだった。
マリ北部の問題において、内と外、敵・味方の識別・認識は、宗教・宗派の違い、権力闘争もあるが、それは「民族」(民族とは幻想だと思っていますので括弧付きで)、実際は言語集団の違いによる対立も多い。
池内さんはそれをバベルの塔と表現されていた。

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