平成二十年度予算案採決をきっかけに空転した国会が約二週間ぶりに正常化したのは三月十三日だった。この日ようやく始まった参院予算委員会での長時間の審議を終えて、福田康夫首相は午後五時すぎに国会議事堂から首相官邸に戻った。その五分後、福田首相を追いかけるように参議院から走り出した一台の車が官邸の車寄せに横付けされた。車から降りたのは自民党の尾辻秀久参院議員会長。首相執務室で、尾辻氏は一枚の紙を差し出した。「渡辺博史(前財務官)、黒田東彦(アジア開発銀行総裁)、白川方明(元日銀理事)……」 紙には人名が羅列されていた。民主党が受け入れ可能な日銀総裁、副総裁候補者リストだという。作成者は民主党参院議員。首相は、一瞬目を見開いて紙を見つめた後、「ありがとうございます」と言って長く黙り込んだ。 日銀の福井俊彦総裁の任期(三月十九日)切れを前にして、福田首相は窮地に追い込まれていた。政府は三月七日に、「総裁=武藤敏郎元財務次官、副総裁=伊藤隆敏・東大大学院教授、副総裁=白川方明氏」という人事案を国会に提示した。しかし、民主党は武藤総裁、伊藤副総裁案に激しく反発。かろうじて白川副総裁案だけは同意を得たが、問題は総裁ポストである。福井総裁の任期切れまで残り約一週間。日銀総裁が空席という前代未聞の事態になれば、福田首相の権威は地に墜ちる。内閣支持率にも悪影響を及ぼすだろう。

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