この政権は、どこまで持つのであろうか?

執筆者:青木冨貴子2017年2月28日

 日米首脳会談にのぞむ安倍晋三首相をホワイトハウスで迎えたトランプ米大統領は満面に笑みをたたえ、心から嬉しそうな顔を見せた。安倍首相のほうもこれに負けないほど大きな笑顔で応え、2回もハグをかわし、トランプの差し出した大きな手をしっかり掴み、そのまま固い握手を交わした。19秒間にもおよぶ長い握手はフェイスブックで世界中にシェアされて広がったほどである。
 この日、2月10日の首脳会談は「日米蜜月」「日米同盟の再確認」などと日本では前向きに報じられた。首相は「素晴らしいビジネスマンだ」と大統領を褒めちぎり、移民閉め出し、難民問題、中東・アフリカ7カ国の入国管理などの政策にまったく異論をはさむことはなかった。露骨にすりよる首相を皮肉る声が米メディアから上がったのも当然である。

孤独なホワイトハウス暮らし

 就任早々、新大統領はメキシコの首相から会談中止を伝えられ、オーストラリアの首相から難民受け入れを求められると通話中にガチャンと電話を切って、物議を醸した。そのうえ「EU(欧州連合)は基本的にドイツの機関だ」などと暴言を吐き、欧州のリーダーから冷たい眼差しを向けられているなか、手放しで友情を育むことのできる日本の首相は大歓迎できる唯一の相手だったにちがいない。しかし、ドナルド・トランプの子供のような喜びようを見ていると、その顔の裏側にへばりついた彼の孤独の深さを感じないではいられない。
 選挙キャンペーン中には何百マイルも飛んでニューヨークへ帰り、自分のベッドで寝ていたドナルドである。そんなホームボーイがホワイトハウス入りしてみると、セントラル・パークの見渡せるペントハウスの自宅とは大分、勝手の違うものであることを実感したことだろう。
 まして妻のメラニアと息子のバロンは就任式の翌日、さっさとニューヨークへ帰ってしまった。
 ホワイトハウスに住むことは、米大統領としての特権をすべて与えられ、最強の軍隊の総司令官になり、世界をリードする巨大なパワーを握ることである。しかし、同時に、プライバシーがすべて失われることでもある。この白い建物にひとり幽閉されるようなものだと痛感しているのではないか。
 多くの大統領がホワイトハウスという「檻」に不満を訴えたといわれる。最近では、表にジョギングに出かけ、通りがかったハンバーガー屋で息抜きをしていたビル・クリントンの姿が思い浮かぶ。新鮮な空気が吸いたいと誰より大声を張り上げたのがジョージ・ブッシュ(息子)だった。大好きなテキサスの牧場とはあまりにかけ離れた環境に最後まで馴染めなかったことだろう。
 ずいぶん前の話だが、英国のチャールズ皇太子がホワイトハウスを訪問したとき感想を求められて、「ああ、結構、小さいのですね」といった言葉には驚いたものだった。確かに、ロンドンのバッキンガム宮殿やウインザー城と比べれば小さいかもしれないが、ホワイトハウスは地上4階、地下2階建て、132部屋をもつ大邸宅である。
 ビル・クリントンが就任した年の春、ニューヨークのアイリッシュ系アメリカ人が聖パトリック祭の夕食会に招待され、夫のピート・ハミルとともに出かけたことがあった。ホワイトハウスの内部は実にエレガントなつくりで、磨き抜かれた調度品や絵画に目を奪われた。確かにひとつひとつの部屋は大して大きい感じはしなかったが、建物全体は広くて迷路のように入り組み、迷い込んでしまいそうだった。

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