昨年5月、第7回朝鮮労働党大会開催を祝う市民パレードを、金日成広場の壇上から見る金元弘氏(右)。金正恩氏の最側近のひとりだったが (c)時事

 金正男(キム・ジョンナム)氏がマレーシアのクアラルンプールで暗殺されて約2週間が過ぎた。テレビのワイドショーを含め日本のメディアは連日、大騒ぎを続けているが(筆者もその1人かもしれないが)、長年、北朝鮮をウオッチしてきた者としては、今回の事件に何とも言えない失望感を抱いてしまう。

 北朝鮮は特異な国ではあり、われわれは同意しがたいが、北朝鮮なりの論理があり、それは、それで、北朝鮮はそういう道を行くのか、と思わせるようなことも時々ある。

 しかし、今回の金正男氏殺害で、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長は、ある「レッドライン」を越えたような気がしてならない。

 本サイトで、事件発生5日後の2月18日に報告したが、それは「白頭の血統」という視点でこの事件を見るということであった。金正恩氏は何か業績があり、何か特筆すべき才能があって、北朝鮮の最高指導者になったわけではない。これは「世襲」といわれながらも、実質的には熾烈な権力闘争で後継者の地位を争取した金正日(キム・ジョンイル)総書記と根本的に異なる点だ。金正恩氏は「金正日総書記の子供」だから、最高権力者になれた。その人物が金日成(キム・イルソン)主席の孫であり、金正日総書記の長男であるいわば「白頭の血統」の嫡流を暗殺することは自らの存立基盤をないがしろにすることであった。

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