トルコがイラク北西部シンジャールを空爆

執筆者:池内恵2017年4月25日

4月25日未明、トルコがイラク北西部のシリアとの国境に近いシンジャールを空爆した。シンジャールに勢力を広げたシリアのクルド系組織YPGを対象にしたもののようだが(トルコはYPGをトルコの反体制武装組織PKKの一部とみなす)、トルコに協力するイラクのクルド自治政府(KRG)を主導するクルディスターン民主党(KDP)系の部隊(ペシュメルガ)にも誤爆による被害が出ている模様だ。

シンジャールは、イスラーム教徒からは異端とみなされる混淆的な宗教ヤジード教の信徒(民族的にはクルド系とみられる)が集住する地域であり、2014年8月に「イスラーム国」が制圧した時は、背教的な異教徒とみなして虐殺や奴隷化を行ったことが国際的な注目と非難を浴び、米国やクルド系諸勢力などによる解放作戦で「イスラーム国」の支配から脱した

その際に、モースルを占拠した「イスラーム国」勢力によって分断され撤退したKDPはシンジャール奪還の過程で十分に影響力を確保し得ず、むしろシリアに拠点を置くYPG系の部隊がシンジャールに浸透し拠点を築くことになった。

トルコは昨年8月24日以来、シリア北部・アレッポ北方へのYPGの勢力拡張を阻むために軍事介入・越境作戦「ユーフラテスの盾」を行って、YPGが主体となるシリア民主軍(SDF)を支援する米国との間に懸隔が広がっていたが、トルコは今年3月末で成功裏作戦を終了したと宣言していた。しかし今後も軍事介入を行う旨を軍当局も、エルドアン大統領も公言しており、それがシリアの「イスラーム国」拠点のラッカなのか(しかしこれは考えにくい)、あるいはYPG系の組織が定着しようとしているシンジャールなのか(こちらがより有力)、と注目されていた。

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