まことの弱法師(13)

執筆者:徳岡孝夫2017年5月3日

 ニューヨークへ飛ぶユナイテッド機の中でペーパーバックの『マージョリ・モーニングスター』を読んでいた。当時のベストセラーで、もう忘れてしまったが、主人公の成長に伴うユダヤ家庭の様子が面白かった。そこへ機内食が出た。美味しいミートローフだった。

 ふと「そうだ。お母さんにニューヨークを見せよう」と思い付き、内ポケットから母の写真を出して『マージョリ』に挟み、前の席の背に入れた。

 後で知ったが、少なくとも西から来る旅客機は、マンハッタン摩天楼群の上空を通らないのである。

 次に気がついたとき、私は女性乗務員に肩を叩かれていた。

「ニューヨークに着陸してます」

 前夜チャイナタウンに近いバーでおしゃべりのバーテンに付き合ったのが失敗だった。小学2年のときから阪急電車の定期と共に通学してきた母の遺影は『マージョリ』ごと失われた。

 リバーサイド・ドライブのIハウスに宿泊予約を確認しておいて観光名所をサッと一巡し、それから、国連本部に近いニュース・ビルにある毎日新聞支局へ行った。「おう、よく来た」と迎えてくれたが、それが山内大介支局長(後に社長・故人)との初対面だったと思う。

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