連載小説 Δ(デルタ)(3)

執筆者:杉山隆男2017年5月4日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

【前回までのあらすじ】

尖閣諸島海域を遊弋中の巡視船「うおつり」に、体当たりしてきた2隻の漁船から漁民風の男たちが乗り移る。爆破。銃撃。後部甲板は攻撃にさらされていた。普段は船内の調理担当の2等保安士・市川準一に、特警隊員として準備の命令が下った。

 

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「うおつり」の上空200メートルで旋回していた海上自衛隊那覇基地所属の哨戒機P3Cの機内でも、爆破のすさまじい衝撃は伝わった。爆風なのか衝撃波なのか、機体が煽られたようにグラッと揺れたのだ。

 機体左側のほぼ中央、P3Cのただ1カ所だけある搭乗扉のすぐ後ろには丸くお椀をふせたような形にバブルウィンドウが張り出している。ウィンドウに向かって身を乗り出すと、はるか真下で縮緬皺のようにこまかくさざめいている海面までのぞける、眺め抜群の監視窓だ。ここからビデオカメラを構えた武器員が高倍率ズームを使って、「うおつり」甲板上で繰り広げられている一部始終を映像に収めていた。

 通常海自のP3Cに乗りこんでいる武器員は、監視エリア内の海域を航行しているタンカー、貨物船から漁船、ひとり乗りの小舟に至るまで大小種別を問わず、ありとあらゆる船を双眼鏡でチェックし、漁船なのに漁具を積んでいないといった怪しい船はいないか、眼を光らせている。とりわけ中国、ロシアなどの軍の艦船については、刑事の尾行さながらP3Cがぴったり上空から張りついて1隻1隻を追尾し、その動きを警戒監視するとともに、武器員が艦船の舳先から甲板の様子、艦尾まであますところなく撮影している。

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