連載小説 Δ(デルタ)(4)

執筆者:杉山隆男2017年5月6日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

【前回までのあらすじ】

永田町・総理官邸地下の危機管理センター。ここに、巡視船「うおつり」の上空にいる海上自衛隊の哨戒機P3Cからの映像が送られていた。爆破。次々と「うおつり」に乗り込む正体不明の男たち。その様子を見ながら、内閣危機管理官の門馬聡は、ヤリ手の内閣官房長官・井手俊太郎に連絡をとった。

 

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 気を失っていたのはそう長い時間ではないだろう。市川は仰向けに倒れた姿勢のまま、薄目をひらき、耳をそばだて、周囲の状況をたしかめると、まず両肘を使って上体を起こし、それからゆっくり立ち上がった。その場で軽く屈伸をし、首を回し、体を左右にひねってみる。背中や腰を動かしたとき微かに鈍い痛みがするのは爆風に吹き飛ばされて床に叩きつけられた打撲のせいだろうが、どうやら骨折や捻挫をした箇所はないようだった。耳の奥にエコーがかかったような違和感が残っているものの、頭痛も特にしない。日頃の訓練の賜物で、瞬間的に両手で頭を抱えこみ受け身の構えをとったことが爆風による衝撃を最小限にとどめたのだろう。もちろん鉄パチをかぶり、ぶ厚い防弾ベストや脛当てを装着していたことが文字通り衝撃吸収のパッドの役目を果たしてくれた点も大きかった。

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