連載小説 Δ(デルタ)(7)

執筆者:杉山隆男2017年5月28日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

【前回までのあらすじ】

珍しく休暇を取り、団欒のひと時を過ごしていた磯部勇人1尉。自衛隊を辞め、新たな人生を送ることを考え始めたところに、緊急の呼び出し連絡が入り、短い休日が終わった。行先は、所属する陸上自衛隊第12旅団司令部ではなく、在日アメリカ陸軍座間キャンプ。ゲートをくぐり、地下壕の入り口のような鉄扉の前に立った。

 

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 カチャ、とロックのはずれる音がして、磯部は重たい扉をひらき、気密性の高そうな室内特有のひんやりした空気につつまれた施設に足を踏み入れた。狭い通路はまばゆいほどの照明に照らされているが、夜間には護衛艦の艦内さながら、ぼうっとした赤色灯がともることになっている。いきなり外に飛び出す事態になっても、暗夜の塗りこめたような暗さにすぐに眼が慣れて、一瞬の遅滞もなく行動がとれるようにするための、いかにもこのチームならではの仕掛けである。

 磯部が待機室のある奥に向かって進んでいくと、足音を聞きつけたらしく、すぐ手前でドアが開いて、長身を迷彩柄の戦闘服につつんだ男があらわれた。磯部たちからは「隊長」と呼ばれている、秘密部隊デルタを率いる事実上のトップ、山科(やましな)だ。階級は、海自なら「こんごう」「きりしま」といった7000トン超えイージス艦の艦長をつとめる1佐、大佐である。

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