ナポレオンとロスチャイルド

執筆者:野口悠紀雄2017年6月1日
(c)AFP=時事

 

 19世紀の初め、2人の異能の同時代人が歴史に大きな影響を与えた。彼らの運命は微妙に絡み合っていた。

 1人はナポレオン・ボナパルト(1769~1821年)。これは、誰でも知っている。もう1人は、ネイサン・メイヤー・ロスチャイルド(1777~1836年)だ。

 ネイサンは、フランクフルトのユダヤ人ゲットーで、マイヤー・アムシェル・ロートシルトの3男として生まれた。ゲットーとは、ユダヤ人の居住地区であり、都市のその他の地域から隔離されていた。

 マイヤーは、古銭商人としてスタートし、その後、ヘッセン選帝侯のお抱え銀行家となった。彼の5人の息子たちは、ヨーロッパの5つの都市で事業を行い、それぞれの地でのロスチャイルド家の祖となった。ネイサンはその中心であり、他の兄弟から最高司令官と呼ばれていた。

 ナポレオンがブリュメールのクーデターで第1執政になったのは1799年11月だから、彼が30歳の時だ。

 その前年、21歳のネイサンは、イギリス・マンチェスターへ移住した。フランス革命以来、ドイツでは綿製品が不足して価格が高騰していた。そこで、産業革命によって綿製品生産の中心地となっていたマンチェスターで安く仕入れ、ドイツで売ろうというわけだ。

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