舵取りの手腕に注目(C)AFP=時事

 

 蔡英文政権の発足からちょうど1年が経過した5月20日、台湾の最大野党である国民党の党主席選挙が行われ、馬英九政権時代に副総統を務めた呉敦義氏が、候補者6人のうち、第1回投票で過半数の得票を獲得するという圧倒的な強さで当選した。

  当初、現党主席の洪秀柱氏や郝龍斌・前台北市長らとの接戦となって第2回投票にもつれ込むとの観測もあったが、長年の党務の経験と幅広い人脈を生かして地方の党組織の票をきっちりまとめた呉敦義氏が、第1回投票でケリをつける形となった。

 筆者はこの結果によって、国民党の政党としての命脈がかろうじて首の皮一枚繋がった、と言えるのではないかと考えている。台湾社会の主流の価値観と合致しない親中的な主張を掲げる洪秀柱氏が再び党主席になっていれば、国民党の内部分裂はますます深刻化し、3年後の2020年の総統選どころか、政党として将来が見通せない危機に陥っていただろう。

「一中各表」を唱える「本省人」政治家

 国民党を率いることになった呉敦義氏とは、どんな政治家なのだろうか。1948年南投県生まれの本省人で、台湾大学歴史学部を卒業後、『中国時報』の記者を務めた。その後政治に転身し、台北市議、南投県長、高雄市長など地方政治でキャリアを積み、立法委員(国会議員)を3期務めた。馬英九総統の信任が厚く、馬政権1期目で行政院長(首相)に抜擢され、馬政権2期目では副総統となった。国民党内における本省人系エリート政治家のトップである。

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