金貨の危険な輸送でネイサンが大活躍

執筆者:野口悠紀雄2017年6月8日
(c)AFP=時事

 

 1808年、ナポレオンが自分の兄をスペイン王にしたことに民衆が反発し、スペイン全土に反乱が起こった。反乱支援のためイギリス政府はサー・アーサー・ウェルズリー(後のウェリントン公爵)を指揮官とする部隊を派遣した。

 ナポレオンは自ら大軍を率いてスペインに侵攻し、イギリス軍を破った。しかし、反乱側はゲリラ戦に転じて頑強な抵抗を続けた。支援するイギリス軍も、イベリア半島に張り付いたままとなった。これがスペイン独立戦争だ。

 この間、イギリス政府は、戦地に向けて人員と物資を頻繁に輸送する必要に直面した。イベリア半島の土地は痩せているため、軍が食料を現地調達することが難しく、他所で購入する必要があったのである。

 第36回で述べたように、イギリスは国債の発行によって戦費を賄う制度をすでに確立していた。ナポレオン戦争においても、このシステムは順調に機能し、イギリス政府には多額の現金が流れ込んだ。

 問題は、この資金をどのようにして戦地まで届けるかである。遠隔地に資金を安全に送るには、為替手形という方法がすでに存在していた。本連載の第12回で述べたように、唐では「飛銭」という仕組みがあり、紙の証書を携行することによって、国は遠隔地と首都の間で資金を移動させることができた。

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