ネイサンの大誤算 金貨暴落で破産か?

執筆者:野口悠紀雄2017年6月15日
(c)AFP=時事

 

 1812年冬のロシアで惨憺たる大敗を喫したナポレオンは、エルバ島に追放された。そして、ルイ18世が即位(この人はルイ16世の弟で、ヴァレンヌ事件の当日に、コブレンツへの亡命に成功した)。

 しかし、15年2月、ナポレオンはエルバ島を脱出する。3月、パリに入城して皇帝に復位した。

 ネイサンにとって、これは願ってもない展開だった。ナポレオンが追放されたままなら、ヨーロッパでの戦いは終わり、金貨輸送の役割もなくなる。しかし、ヨーロッパは、これから再び戦乱に巻き込まれるのだ。

 ネイサンは、兄弟たちと共に直ちに金の購入を再開。金の延べ棒や金貨を片っ端から買い集めて、ウェリントン公爵へ輸送した。彼は、それまでのナポレオン戦争の時と同じように、今回の戦乱も長引くだろうと予想していたのだ。ファーガソンによると、動かした金額は、15年中で980万ポンド近くに達した。

 6月、各国は第7次対仏大同盟を結成。これに対してナポレオンは、12万強の兵を率いてベルギーに進出し、イギリス・オランダ・ドイツ軍、およびプロイセン軍と対決した。

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