憲法改正の「必要性」と「可能性」(上)

執筆者:冨澤暉2017年6月17日
1951年9月8日、サンフランシスコ平和条約に調印する吉田茂首相 (C)時事

 

 本年5月3日に安倍晋三自民党総裁が「憲法9条の1・2項は変更せず、3項に自衛隊を明記し、2020年を新憲法施行の年にしたい」と新聞記事とビデオ談話で発表し、国内外に波紋をもたらした。

 当日夕方のテレビ番組に出た前地方創生相の石破茂氏は、「今まで積み重ねた議論の中ではなかった考え方だ。これまでの自民党の議論って何だったのだろうか?」と早速の疑問を呈したが、同日ハワイで二階俊博幹事長は「総裁の発言に協力していくのは当然だ」と言った。

 その後、岸田文雄外務大臣は「現時点で憲法を改正する必要はない」と発言した。これらにより、自民党内だけでも総裁発言への異論があることが露呈したが、一方で「公明党も戸惑い」というニュースが流れ、野党は「期限を切ることや読売新聞を読め、というのは国会無視」という手続き論のみで総理を攻め、「そんなことより野党自身の憲法改正論を出しなさい」と首相に切り返されている。(5月13日現在)

安倍総裁「憲法改正発言」の狙いは

 この問題は、マスコミにとっても重要だったようだ。筆者のところへも問い合わせの電話がいくつかあり、中でも「首相改憲発言の狙いは何か」という質問が多かった。「安倍首相はオリンピックに合わせ、自分の手で憲法改正を実行し、祖父の岸信介からの夢を果たすという狙いを持って言ったのではないか」と盛んに聞かれたが、筆者はこの質問には「仮にそんな狙いが安倍総裁にあったとして、これまで第9条を考え続けてきた自分にとって、それは全く関わりのないことである」と応えた。多くの記者・ディレクターは「そうですか」と電話を切ってくれたが、なお粘るあるTVディレクターに対しては、こう話した。「そうではなくて、あの発言のうち『1、2項をそのまま残し新3項に自衛隊を明記する』という部分が(1)与野党の改憲論議を盛り上げ、結果として国民全員が参加したかたちの憲法をつくるための呼び水(誘い水)にするということだったのか(2)自民党憲法改正草案は廃案にして、ともかく現状維持を保障する憲法改正の実績をつくろうということだったのか、が分からない。(1)ならば結構だが、(2)ならば却って困る。その理由は……」。すると「ではその話で良いからキャスターと話してくれ」と言われ、1時間半ほどかけて収録し数分間放映された。「首相(総裁)改憲発言の趣旨は」というテーマについては一応、筋の通った答えにまとめてくれたので、これはこれで良かったと思った。

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