ネイサン・ロスチャイルド 一世一代の大博打

執筆者:野口悠紀雄2017年6月22日
(c)AFP=時事

 

 ナポレオン敗北の情報を掴んだネイサン・ロスチャイルドが、ロンドンの取引所で出したのは、国債の売り注文である。

 コンソル国債の価格は、1814年には額面の7割程度だったが、ナポレオンの復権に伴って下落し、ワーテルローの戦いの直前には、6割程度にまで下がっていた。

 カトル・ブラでのイギリス軍退却のニュースで、国債はさらに値下がりした。そしていま、ネイサンは平然と売り注文を出している。人々は浮き足立ち、市場はパニックに陥った。

「ネイサンはワーテルローの結果を知っている。それは、イギリス軍敗北のニュースだ!」

 人々は国債の投げ売りに走り、価格は大暴落した。

 価格が二束三文まで落ちたのを見届けたネイサンは、大量の買い注文に転じた。ナポレオン敗北のニュースがもたらされたのは、その直後だ。

 結局ネイサンは、その後暴騰した国債を、底値で買ったことになったのである。

 この話自体はよく知られている。そして、「情報を持っているのなら、私だってそうするよ」という人がいるかもしれない。

 しかし、よく考えていただきたいのだが、これは大博打である。ナポレオン敗北の公式ニュースは、いずれイギリスに伝わる。そうなれば、コンソルは暴騰してしまう。その前に買いに転じておかなければ、保有国債を安く売るだけのことに終わってしまう。絶妙のタイミングで買いに転じなければ、情報を活用したことにならないのだ。

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