6月21日のサウジのムハンマド・ビン・ナーイフ皇太子更迭と、サルマーン国王の実子のムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子の皇太子への昇格は、長幼の序を重んじ、各世代で兄弟間で順に権力を継承してきた慣例を破り、米政府との関係も良かった前皇太子を排除して、若い新皇太子に権限を集中させる、2015年初頭から始まっていた動きの最終幕だった。

一種の宮廷クーデタの側面もあるが、水面下で入念に進めてきたため、王室内部やサウジ内政上は当面は混乱をもたらさないと考えて良さそうだ。

先日の「中東の部屋」に寄稿した論考でも記したが、問題は権力を集中したムハンマド・ビン・サルマーン新皇太子が何をするかである。内政面でも新皇太子肝入りの「ヴィジョン2030」の実現可能性はどう見ても高くなく、外交面ではイエメン内戦への軍事介入も、カタール叩きも、成果は曖昧な言い方をすれば不透明で、はっきりいえば失敗する可能性が高い。内政での権限掌握が進んだことから、いっそう失敗が失敗と言われなくなり、英語圏でも多数のメディアを囲い、知識人を養っていることから、実態と報道・論評が大きく乖離する状況が続きかねないことも、サウジの情勢認識を歪ませ、政策論をこじらせることにつながりかねない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。