まことの弱法師(15)
2017年6月25日
ニューヨークはマンハッタンが、木造船の基地だった頃の話である。ダイヤモンド・ジムの渾名で呼ばれる鉄道成金がいた。
ジムはネクタイ・ピン、カフス・ボタン、ワイシャツやジャケットのボタン、そのすべてをダイヤモンドにした。彼はキラキラ輝きながらニューヨークの大道を闊歩した。
道を行く人は立ち止まって眺めた。スリの心得ある者はわざとぶつかり、ダイヤを引きちぎって逃げた。
警察は「犯罪を奨励するのと同じだ、止めてくれ」と頼んだがジムは意に介さなかった。カネなら、なんぼでも入ってきたからである。
彼の父親は船乗り相手の安ビヤホールを経営していた。ジム自身はホテルのボーイを振り出しにNYセントラル鉄道の荷物係から鉄道備品を扱う商売に転じた。折りからの鉄道景気にのって、ザックザックと儲けが入ってきた。全米1のセールスマンと評判を取った。
同じ頃、マンハッタンの夜の女王はオペレッタ女優のリリアン・ラッセルだった。朝の稽古が済むと、ドイツ料理店に行って昼食をとるのが彼女の日課になっていた。
ところが、ある日のことである。ジムがツカツカと入ってきた。そしてアタッシェ・ケースをテーブルの上に置き、ピンと音をさせて鍵を開け、蓋を開いた。中には現金で100万ドル。
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