英仏の戦費調達方式 どちらが合理的?

執筆者:野口悠紀雄2017年6月29日
(c)AFP=時事

 

 ナポレオン戦争は、膨大な戦費を必要とした。そして、イギリスとフランスの戦費調達方式は、対照的だった。この戦いは、両国の戦費調達方式の戦いでもあったのだ。

 ナポレオンは、国債を発行することなく、新紙幣を発行することもなく、戦費を税で賄った。税といっても、占領地からの徴収だ。征服したオーストリアとプロシアから巨額の賠償金を徴収し、フランス国外での戦費に充てた。富田『国債の歴史』によれば、1799年から1814年の間に占領地区で獲得した正貨は、約8億フランに上った。

 さらにフランスに正貨を還流させた。このため金銀本位制を維持することができた。ピーター・バーンスタインは、『ゴールド』(日本経済新聞社)の中で、「大きな戦争の渦中で通貨価値を低下させなかった事例は、これが歴史上唯一のものだ」と述べている。

 これに対して、イギリスはコンソル国債の大量発行によって戦費を賄った。1793年から1815年にかけて、イギリスが抱える負債は、イギリスの年間生産高の2倍余りの7億4500万ポンドになった。

 その結果、兌換要求が増加し、1797年2月、イングランド銀行は金兌換の停止に追い込まれた。つまり、イングランド銀行券は不換紙幣になったのだ。金兌換が再開され、イギリスが金本位制に復帰したのは、1821年5月のことである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。