連載小説 Δ(デルタ)(11)

執筆者:杉山隆男2017年7月2日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

カラシニコフを構え、市川が潜む道具箱に近づいてくる「愛国義勇軍」最年少の兵士・張。銃口を向けられ、高まる恐怖心。いっそ飛びかかろうと秒読みを始めた途端、部屋の外から1発の銃声が聞こえた。一瞬の隙を突き、市川は張を取り押さえた。

 

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 ドサッというかなりの音がしたはずだが、廊下からは男たちの激しく言い争う声が聞こえてくる。いまや攻守逆転し、ナイフの冷たい感触に表情をこわばらせ、身動きひとつできないまま、おびえた眼を向けてくる男と市川は奇妙な話だが、廊下の言い争いに自然と聞き入る恰好になった。

「謝(シェ)、貴様裏切るのか!」

 声の主は、さっき装具室の様子をのぞき見に来た男のようだ。歳は自分より少し上ぐらいだろうが、きびきびとしてひとつひとつが完結している動作からは自信のようなものがうかがえ、市川は人民解放軍の若手将校だろうと当たりをつけていた。

「黙れッ。裏切っているのは祖国に弓引いた呉(ウー)、おまえらの方だろうが」

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