返還20周年:「1国化」で「香らぬ香港」へ

執筆者:野嶋剛2017年7月7日

 

7月1日、香港で行われた民主化デモの様子(筆者撮影、以下同)

 

 私は1990年に香港中文大学に留学した。1年間の語学留学であったが、その時に覚えて学び続けた北京語(中国語)と、今はすっかり錆び付いた広東語を使って香港返還20周年を取材している。そう考えると、私にとって若い頃の留学は後の人生に多少なりとも意味を持ったようである。

 香港留学の経歴を見た人に「なぜ香港に」とよく質問されるのだが、当時の香港は、中国よりも台湾よりもずっと輝いていて、自由と自信、エネルギーに満ち溢れ、「東洋の真珠」の名前に相応しい場所だった。

 当時の日本には香港政治を扱った本があまりなく、故・中嶋嶺雄さんの『香港 移りゆく都市国家』という本を片手に香港に渡った。その中嶋さんは1997年の香港返還の際に著した『香港回帰』という本で、香港の未来に悲観的な議論を展開している。返還前後から10年ぐらいは、香港でも日本でも香港の未来については楽観論が強く、中嶋さんの議論には「時代遅れ感」が漂っていた。

 ところが、さらに10年が経過したいま、改めて読み返してみると、遅れているどころか、現在の情勢を先取りしていたことに気づかされる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。