紙幣発行論者ベンジャミン・フランクリン

執筆者:野口悠紀雄2017年7月20日
(C)AFP=時事

 

 アメリカ独立宣言の起草者の1人であるベンジャミン・フランクリンは、多才な人だった。

 2年間の学校教育を受けただけで、印刷見習工からたたき上げた。避雷針などを発明したし、凧を用いた実験で、雷にプラスとマイナスの極性があることを発見した。さらに郵便制度を改善し、消防隊、図書館、病院などを作り、ペンシルバニア学術院(後のペンシルバニア大学)の設立にも貢献した。彼は、これから述べるように、アメリカにおける紙幣の発行にも貢献している。

 イギリスの植民地であるアメリカには、当初、独自の通貨はなく、イギリスやスペインの通貨が使われていた。しかし、1690年頃から、植民地政府が紙幣(植民券)を独自で発行し、流通させるようになった。

 17歳の少年だったフランクリンがフィラデルフィアに移住してきた1723年は、ペンシルバニア州が初めての紙幣を発行した年だった。これは土地を担保としたもので、有効期限があった。紙幣発行は、地域経済を活性化させた。若いフランクリンは、このさまを目のあたりにして実感したはずだ。

 やがて紙幣の期限が到来し、終了か存続かを巡って論争が起きた。裕福なフィラデルフィアの市民は、延長を望まなかった。インフレが発生して通貨価値が下がることを恐れたのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。