北軍を勝利に導いたグリーンバックス

執筆者:野口悠紀雄2017年8月3日
(C)AFP=時事

 

 アメリカの紙幣発行は、大陸紙幣の後も続き、鉄道建設などの財源として不換紙幣が用いられた。しかし、1837年の恐慌で発行停止となった。

 本格的な紙幣発行は、南北戦争(1861~65年)中に行われた。合衆国北部連邦 (the Union)も南部連合(the Confederacy)も、戦費調達のためにさまざまな方法を用いたが、そのなかで巨額の政府紙幣発行は、重要な地位を占めていた。

 61年、北軍は第1次ブル・ランの戦いで大敗を喫し、国債による戦費調達が困難になった。エイブラハム・リンカーン(1809~65年)はこの時、銀行借入で資金を調達しようとした。しかし、銀行家達は、27%という高利貸し並みの高利子を要求してきた。

 そこでリンカーンは、財務長官の「連邦政府議会が宣言するだけで通貨が作れる」という助言に従い、62年に法定通貨法を制定し、「グリーンバックス」(greenbacks)と呼ばれる政府紙幣を発行した。この名は、既存の紙幣と区別するために裏面を緑色としたことから付けられた。

 62年に発行が開始され、79年まで続けられた。最初の2年間の発行額は4億5000万ドルに達した(4億3100万ドルや4億800万ドルという説もある)。この紙幣は、金や銀の準備をもたず、法貨であると宣言されたにすぎない不換紙幣である。北軍は、利息なしの手段で資金を調達し、南北戦争の勝利を獲得したのだ。

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