核大国である米国とロシアでの大統領交代。その裏では「核のボタン」の引き継ぎという極めて厳かな儀式が行なわれる。 ロシアでは大統領職はプーチン氏からメドベージェフ氏に引き継がれた。ひょっとしてプーチン氏が核のボタンを掌握し続けるかもしれない、とひそかに予測していたが、邪推に過ぎなかった。だが今後の展開次第では、プーチン氏が大統領に指示する局面があるかもしれない。 五月七日の新大統領就任式の直後、クレムリン内の一室でセルジュコフ国防相が立ち会い、核のボタン引き継ぎ式が行なわれた。「同志、最高司令官殿! わが国の戦略戦力の指揮権を引き渡します」と大統領付き将校が宣言し、新大統領のもとに「核のブリーフケース(カバン)」を運び込むシーンがロシアのテレビで放映されたという。 米国では「フットボール」と呼ばれる代物だ。全面核戦争のシナリオ「単一統合作戦計画(SIOP)」が「ドロップキック」というコード名だったので、そんな渾名がついた。革製のカバンで、中には最高機密が詰まっている。 衛星通信電話のほか、核兵器発射を承認する秘密コード、核兵器に関するテキストのような文書などが納められているという。大統領がどこへ行こうと、フットボールを管理する「少佐」は影武者のように大統領に寄り添って同行する。一九六二年のキューバ危機以後、現在のようなシステムがとられている。

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