1953年7月、朝鮮戦争休戦協定に署名する金日成主席(左)。建国の英雄として北朝鮮を領導した (C)EPA=時事

 

小此木政夫:なぜそこまで北朝鮮の体制が強靭なのか。その1つの理由は、北朝鮮という国家は、東ドイツや南ベトナムとは違うからだと、私は思いますよ。

 なぜ南ベトナムは敗れたのか。フランスやアメリカは一所懸命に支えたが、南ベトナムには国家的な正統性が薄弱だったからです。北ベトナムは抗仏戦争の歴史や「ホー・チ・ミン」という独立の父を持っていた。言い換えれば、ある種の正統性原理を持った国家であった。それに対して、南ベトナムはフランスが旧皇帝バオダイを引っ張り出した国ですからね。その後を継いだのが、カトリック教徒のゴ・ジン・ジェム政権でした。これではダメですね。

 東ドイツの場合は、ウルブリヒトやホーネッカーが政権を担いました。彼らはモスクワで養成された共産主義者たちです。ドイツ人にとってみれば、どう見ても傀儡政権ですよ。正統性がありませんでした。

戦前の天皇制をモデルに

小此木:ところが、北朝鮮は日本人が考えているよりも、彼らなりの「正統性原理」を持っている。確かに韓国には「3.1独立運動」(編集部注:1919年3月1日、日本統治下の朝鮮で起きた独立運動)以来の歴史、すなわち上海と重慶の臨時政府、李承晩(イ・スンマン)大統領や金九(キム・グ)主席の独立運動の歴史があるが、北朝鮮もそれなりの歴史を持っている。その最も重要な部分が、1930年代後半に満州で展開された抗日武装闘争、とくに金日成(キム・イルソン)によるパルチザン闘争です。

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