無敵トヨタを待ちうける「GM化」の罠

執筆者:五十嵐卓2008年7月号

世界ナンバーワンの名をほしいままにするトヨタだが、大きくなりすぎた図体はかつてのGMのような“共食い”を始めている。  GMまであと九千台――。世界最大の自動車市場である米国の五月の販売台数で、首位の米ゼネラル・モーターズ(GM)は前年同月比二七・六%減と大きく落ちこみ、追いあげるトヨタとの差は遂に一万台を切った。グローバル市場でのシェアではトヨタが今年、GMを逆転するのは既に確実とはいえ、GMのお膝元である米国でトヨタが売り上げ台数のトップに立てば、猛反発を受ける恐れは大きい。だが、世界の製造業の頂点に立とうとするトヨタには一九八〇年代に激化した「日本車バッシング」のような貿易摩擦による波風を気にする風はない。米国民はトヨタ抜きに暮らせないところまで来ているからだ。  メーカーとしてのトヨタの強さは世界の自動車業界から隔絶しており、「これからどこまで伸びるのか」と思わせる面がある。だが、GMを追い詰め追い越すトヨタの姿には、どこか不安の影が忍び寄っているのも事実。肥大化し、焦点の定まらない自動車メーカーになろうとしているからだ。「トヨタのGM化」が進みつつあるのだ。 「アイシス」「アベンシス」「アリオン」「アルファード」……。トヨタが現在、日本市場で販売している車種を五十音順に並べると「ア」だけで早くも四車種になる。無数にある派生車を除いて車種名だけ数えても、全体では四十数車種にのぼる。日本市場では販売系列が「トヨタ」「トヨペット」「トヨタカローラ」「ネッツ」「レクサス」の五系統あり、それぞれに別々の車種を供給しなければならないためだ。商品点数の多さは当然、トヨタが最も嫌う「ムダ」を、開発、生産、物流、広告・宣伝など様々な分野で生む。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。