連載小説 Δ(デルタ)(20)

執筆者:杉山隆男2017年9月2日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

前回までのあらすじ】

執務室でつかの間のティータイムを過ごす門馬・内閣危機管理官と、後輩の滝沢・内閣情報官。彼らの眼前には、状況をリアルタイムで映す3つのディスプレイと、2台のテレビがあった。テレビには巡視船「うおつり」乗っ取り事件に関する特別番組が流されている。犯行グループの「愛国義勇軍」は中国の反体制グループのようだが、中国はこれを利用して「センカク」に対処するのではないか。しかも、もし自衛隊が動いたら――。

 

     17(承前)

 もし中国人テロ集団の愛国義勇軍がセンカクに上陸したとき、日本政府が彼らを実力であの島から排除しなかったら、間違いなく世界は、センカクを日本の一部とみなすことはしないだろう。国家の主権を自ら行使しなかったという理由で――。手出しをしないというのは、和を尊び争いを好まない、平和的な手段などではなく、世界には主権の放棄と映るのだ。

 とりわけ、長期休暇になればいまでもアイオワの広大な自分の農場で馬にまたがりライフル片手に見回りをしているというホワイトハウスの主(あるじ)などは、自国のちいさな島ひとつ満足に守れない日本政府に対して、真っ先に親指を逆さに突き立ててみせるだろう。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。