なぜ金が本位貨幣になったのか?

執筆者:野口悠紀雄2017年10月12日
(C)AFP=時事

 

 18世紀の後半に金がイギリスにおいて本位貨幣として採用されたのはなぜか? なぜ銀でなく、金なのか?

 教科書にある説明だと、金は、非常に柔らかいので加工がしやすく、分割することもできるからだ、とされている。そのとおりだ。転生の大きさは驚嘆するほど。1グラムの金は、1メートル四方にまで伸ばすことができる。その厚さは実に10000分の1ミリだ。

 また、銀の輝きは急速に失われるが、金は腐食しにくい。それに、何といっても、金が持つ色やその輝きは、人間にとって根源的な魅力を持っている。このような神秘的な要素が金本位制の背後にあることは、否定できない。

 ピーター・バーンスタインは、『ゴールド』(日本経済新聞社、2001年)のなかで、「金本位制には、れっきとした宗教のあらゆる特徴が備わっていた」と言う。「福音書は地金委員会の報告、祭壇は銀行の金庫室に積み上げられた金塊の山、そして司祭長が金融当局者」だというのだ。

 ただし、金が選ばれたのは、それだけの理由によるのではない。偶然の要素も大きかった。

 実際、イギリスでも18世紀の初めには、銀が通貨として使われていた。ところが、次第に金貨(ギニー金貨)が使われるようになったのだ。そうなったのは、金銀比価の偏りによる。

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