「貧困と格差」ではなく「道徳と家族」というポピュリズムの「本質論」
2017年10月16日

今後のポピュリズム論議に大きな影響を与えるかもしれない論考
一般的な知名度がそれほど高いわけではないものの、欧州にかかわる研究者やジャーナリストの間で、イワン・クラステフ(Ivan Krastev)の名はなじみ深い。ソフィアやウィーンを拠点に活動するブルガリア人政治学者で、『インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ』紙に月1回掲載されるコラムの筆者でもある。東京の洋書店で彼の新著『AFTER EUROPE(欧州以後)』(University of Pennsylvania Press)を偶然見かけて手にしたのも、毎度鋭い彼のコラムを楽しみにしていたからだった。
本書はわずか128ページで、厳密な論理構成に基づく著作というより、政治エッセーに近い。邦訳が出ていない段階でここに紹介するのは、欧州社会が現在抱える問題を極めて的確に指摘していると思うからにとどまらない。本書が1つの欧州論を超えて、「ポピュリズム」の起源と方向性について説得力のある論を展開しているからだ。
欧米各国でポピュリズムが台頭した背景としては、格差の広がりや労働者層の生活水準の落ち込み、若者の不安定な雇用状況など、経済的な要因に求める分析がこれまで一般的だった。しかし強権的な政権が支持を集める旧東欧の情勢を検証したクラステフは、異なる観点からポピュリズムを位置づけた。すなわち、社会の変動期にあたり「家族的な社会や道徳的価値観が崩壊する」といった危機感が、人々をポピュリズム支持に駆り立てた、と看破したのである。
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