クルド危機が示す米国の仲介能力の低下

執筆者:池内恵2017年10月16日

キルクークをめぐってクルディスターン地域政府(KRG)とイラク中央政府の衝突の寸前まできているが、ここに至った直接の契機は9月25日のクルド独立住民投票が、イラクの憲法上の正当な地位を持つクルド地域の外にある(ただしKRGの実効支配下に2014年以来ある)キルクークなどでも行われたことだ。

1991年の湾岸戦争以来イラク北部クルド勢力の庇護者であった米国が、このような形での住民投票の強行を止められなかったところにも、トランプ政権の中東政策の実効性の低下が見られる。

投票日の2日前の、9月23日にティラーソン国務長官がKRG側に対して投票の延期を求めた書簡が明らかになっている。

"U.S. Nearly Averted Kurdish Referendum," Bloomberg, October 14, 2017.

内容面では当面の住民投票の延期を要請しつつ、一定期間のイラク中央政府との交渉で埒が開かなければ、将来には住民投票の実施も認めるという内容で、クルド側の意向を最大限汲み取ったものでもある。クルド勢力がなぜこれを受け入れなかったのか、なぜもう少し待てなかったのか、という批判はのちに出てくる可能性がある。

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