イラク政府軍がエルビールの南に迫る

執筆者:池内恵2017年10月20日

10月20日、イラク政府軍部隊が、キルクーク県の北部でクルド人の自治区(クルディスターン地域政府=KRG)との境界にある町アルトゥン・キョプリュに迫り、反撃に出たクルド民兵組織ペシュメルガと戦闘を行ったという。

"Iraq army seizes town near Erbil after fierce clashes," al-Jazeera, October 20, 2017.

"Iraqi army, Shiite militia and Peshmerga exchange heavy fire north of Kirkuk," Rudaw, October 20, 2017.

アルトゥン・キョプリュはキルクークとKRGの首都エルビールを結ぶ幹線道路の上にあり、キルクークとクルド自治区との境界になっている小ザーブ川にまたがっている。エルビールの南方約50kmに位置する。もしイラク中央政府軍がこの町を越えてKRGの領域に侵攻することがもしあれば、重大な局面となる。

2014年6月以降に「イスラーム国」の台頭の混乱に乗じてKRGが制圧した地域については、イラク中央政府が返還を求める(2003年のフセイン政権崩壊時にKRGが掌握していた領域までペシュメルガに撤退を求める)ことが国際的に正統とみなされうるが、さらにそれ以上侵攻すれば、米・英・仏が「飛行禁止区域」を設けてフセイン政権の支配下から離脱させ支援して来たクルド人の「正統な」領域を侵害することになる(例えば、フランス政府はイラク政府にクルドの正統な権利を侵さないよう自制を求める声明を出している。ただし「正統」の範囲は解釈が分かれうる)。

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