10月26日、タイ・バンコクで行われたプミポン前国王の国葬で、王宮周辺を進む王家ゆかりの葬儀用の山車 (C)時事
 

 10月25日から5日間、バンコクの王宮前広場において、1年前に亡くなった故プミポン前国王の葬儀が、歴代国王と同じように古式に則り、荘重かつ煌びやかに執り行われた。

 国王の大葬である。華やぎなどという形容は差し控えるべきだろうが、それでもなお華やぎ以外の言葉がみつからないほどに、目も眩むばかりの中世王朝絵巻が続いた。

 1年にわたって王宮内に安置され、参内した1000万人を超える国民が別れを告げた国王の霊柩は、王家ゆかりの葬儀用の山車によって、王宮前広場に設けられた葬儀用宮殿に運ばれ、荼毘に付された。

 ライトアップされ、漆黒の闇にクッキリと浮かび上がった火葬式殿から立ち昇る白みを帯びた煙は、薄絹を広げるかのようにゆっくりと天空を覆い、やがて消えていった。ここに9世王の時代は名実ともに歴史となり、来たるべき戴冠式を経て、タイでは10世ワチュラロンコン王による新しい時代が幕を開ける。

 1946年に、兄である8世王の不慮の死を受けて王位に就いてから2016年までの70年にも及んだ治世、ことに1973年10月に軍事独裁政権を倒した「学生革命」以降のタイの歩みを振り返るなら、前国王は国民統合の源泉であり、政治的危機を乗り越えるための最後の拠り所であった。やはり前国王には、「国王を元首とする民主主義」を謳う憲法とは別次元の、世俗の権力を遥かに超えた権威が備わっていたと同時に、そのことを国民の誰もが疑うことなく受け入れていたということだろう。

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