連載小説 Δ(デルタ)(29)

執筆者:杉山隆男2017年11月3日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回のあらすじ】

中国旅客機の「事故」による那覇空港の閉鎖は、交通マヒを引き起こしただけでなく「デルタ」の作戦遂行にも大きな影響を及ぼした。使いたい輸送機が使えず、民間機の退避で沖縄の米軍飛行場も使えない。結局センカクへは、海上自衛隊のヘリ空母「かが」を使用するという作戦に変更された。

 

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 腹に響く野太いローター音と絶え間ない振動に全身を揺さぶられること1時間あまり、デルタチームを乗せた大型ヘリのチヌークが西南に針路をとった「かが」に追いついたのは、海面を照らす日射しからさっきまでの勢いがなくなり、そろそろたそがれがはじまろうとしている時刻だった。

「10時の方向に『かが』が見えてきました」

 コックピットの左席から機長が振り返って叫ぶと、磯部ら29人はいっせいにシートから立ち上がり、機体左側の丸くくりぬかれた機窓にとりついた。

「でっけえ!」「なんだァ、あれは!」「ほんと空母だッ」

 隊員たちは機内を埋めつくすローターの轟音を圧するほどの大歓声をあげた。少年に戻ったかのような、晴れやかでどこまでも突き抜けていくその声からは、彼らがこれから赴こうとしている任務の内容はとても想像できない。

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