サウジのムハンマド皇太子が「汚職摘発」を掲げて断行した王族・企業家・財閥総帥の大量逮捕の目的や効果ははっきりしない。それが「軍・治安機構の統一」への一歩となりうることは先ほど記した。しかし企業家・財閥総帥の主要な人物を軒並み拘束していることは、ムハンマド皇太子が売り物にしている国家・経済大改革計画である「ビジョン2030」の実現性をむしろ遠のかせるのではないかと思われる。ヴィジョン2030の目玉は国家主導経済から民間主導の経済への転換であり、そこでは民間企業の役割と、民間企業に投資し取引する外国資本の役割が欠かせない。企業家の地位が政治に大きく左右され不安定で不確かとなると、ヴィジョン2030の実現に不可欠な民間経済の活性化のためには、阻害要因となるだろう

ムハンマド皇太子にとっては政治的な政敵の排除と王位継承の完成が何よりも優先順位が高く、経済変革のためのヴィジョン2030は、それ自体を実現することよりも、王位継承の過程でムハンマド皇太子を勢い付ける政治的な意義の方が大きいのではないか、それは経済政策としては実現性が乏しい、あるいはそもそも実現する意図や推進力を根本的に欠いているのではないか、という疑念を強めてしまいかねない措置である。

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