連載小説 Δ(デルタ)(32)
2017年11月25日
【前回までのあらすじ】
巡視船「うおつり」を乗っ取った愛国義勇軍のメンバーが魚釣島に上陸したとの情報は、総理官邸危機管理センターに集まった緊急参集チーム(キンサン)も届いた。チームを率いる危機管理監の門馬は、何度も修羅場をくぐった警察官僚時代のことを思い出しつつ、指示をてきぱきと出し続けていた。
26(承前)
制服姿になった門馬には、脳裏に必ず浮かんでくる言葉があった。
ノーブレス・オブリージュ。訳して、高貴なる者の義務。英国の貴族たちはふだんは特権に守られた生活を享受していても、一朝ことがあったときには馬上の人となり、剣を振るい、先頭立って敵陣に攻め入らなければならない。英国の王室がたとえ王位継承者の皇太子や王子であっても軍務につかせ戦地に赴かせるのは、この言葉がいまなお生きつづけ力を持っていることを物語っている。
門馬にとって、ノーブレス・オブリージュは、日本のもののふの気概を語った、名こそ惜しけれ、と互いに響きあう言葉のような気がしていた。先に立つ者とは、どんな人間かということである。
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