連載小説 Δ(デルタ)(33)

執筆者:杉山隆男2017年12月3日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

極秘裏にイラク戦争の戦場に派遣し、米軍部隊にまぎれこませて実際の戦闘に参加させた陸上自衛官からなる、絶対秘密の部隊「デルタ」。その存在を最高指揮官たる総理大臣に指摘された際は辞職を覚悟した陸上幕僚長だったが、センカクへの出動を命ぜられ、「頼む」と言われたとき、その顔に精気がよみがえった。

 

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 エレベーターで5階に上がると、枯山水を模した吹き抜けの中庭はすでにライトアップされていた。バックに配した竹林に下から幾筋もの光が当てられ、竹の葉が織りなす影の紋様がますます抽象画のような非日常の空間をつくりだしている。その借景を横目にしながら門馬は廊下を進み、官房長官ではなく総理の執務室に向かった。

 執務室の様相は一変していた。いつもは黒っぽいチーク材の引き戸が目隠し代わりになっている壁面から巨大なスクリーンがあらわれ、必要な機材もすべて運びこまれていた。

 長期戦を想定して、部屋の隅にはホテルのビュッフェ形式でコーヒーメーカーやティーバッグ用のポットがおかれ、300円で肉厚のかつ丼が食べられると事務職員や番記者たちに人気の官邸の食堂が用意してくれたサンドイッチが、小腹が空いたときすぐにつまめるように、リネンのカバーを敷いたテーブルにラップをかけられてならんでいる。

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