連載小説 Δ(デルタ)(35)

執筆者:杉山隆男2017年12月16日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

秘密部隊デルタのオペレーションルームと化した、総理執務室。トップの緒方首相をはじめ、井手官房長官、門馬危機管理監、滝沢情報官が、中国の意図についてさまざまに意見を交わし、考えを巡らせていた。それは現代だけでなく、時に歴史をさかのぼるものでもあった。一方、乗っ取られた巡視船「うおつり」の船内では――。

 

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 その遺体から爆弾を仕掛ける場所を示したメモのようなものは結局見つからなかった。船内に居残った愛国義勇軍のメンバーが謝(シェ)ともうひとりの他に誰かいるのか、依然としてわからない中で市川は動くに動けない状態がつづいていた。

 装具室と同じ下甲板にある、乗組員居住区の空き部屋にとりあえず張(チャン)と2人して身をひそめ、階段を下りてくる靴音や上の方からの物音がしないか、耳をそばだてていたが、市川はずっと気になっていた疑問を張にぶつけてみた。

「魚釣島に上陸したみんなはこのあとどうするんだ。あの南海の孤島に立てこもるつもりなのか」

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