連載小説 Δ(デルタ)(36)

執筆者:杉山隆男2017年12月23日

 

沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

愛国義勇軍に乗っ取られた巡視船「うおつり」の船内。唯一自由の身の乗組員・市川は、仲間に引き込んだ義勇軍の若い兵士・張から驚くべき話を聞かされる。センカクに上陸した義勇軍メンバーは、いずれ「うおつり」に戻る。彼らが「うおつり」から脱出できないような方法を、市川は考え、実行に移すことにした。

 

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「ボス、ちょっといいですか」

 声をかけられるまでまったく気づかなかったのは磯部の不覚だが、指揮官としての立場から言わせてもらえば、部下が、足音も気配までも完璧に消して目標に近づいてこられたというのは、訓練の賜物に他ならなかった。

 PCの画面に見入っていた磯部が振り返ると、デルタチーム最年少の28歳、藤平(ふじひら)3尉が長身をわずかにうつむかせ、かしこまった様子で立っている。

 どこの国の軍隊でも特殊部隊の主力は、あり余る体力に抜群の身体能力が売りものの若手兵士と、鬼軍曹の異名をとる豊富な経験に裏打ちされたベテラン下士官から構成されている。主役は下士官兵なのだ。自衛隊のオモテの特殊部隊として編成表にも正式に明記されている特殊作戦群でも、第1空挺団や日本の海兵隊の異名をとる西部方面普通科連隊、訓練のさい「敵役」をつとめる陸自のアグレッサー的存在、富士教導団普通科教導連隊など、いずれ劣らぬ屈強の部隊から選抜されてきた優秀な下士官たちが戦力をになっている。

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