連載小説 Δ(デルタ)(37)

執筆者:杉山隆男2017年12月30日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

作戦決行のため、護衛艦「かが」に乗艦してセンカクへと向かう秘密部隊デルタ。そのメンバーは、いずれも卓越したスキルの持つ士官たちだった。だがそれだけが選定の理由ではない。それぞれの持つ個人的な背景も、充分に考慮されていた。

 

    29(承前)

「どうした?」

 PCを閉じながら磯部が聞くと、藤平はすぐには答えず、戦場に向けて出発するまでの待機時間をメンバーが過ごしている広い室内をぐるりと見回した。27人の隊員は例外なくひとり掛けソファのリクライニングを限界いっぱいに倒して、眼を閉じ、両耳にしたイヤホンから流れてくる音楽に聴き入っていた。

 藤平に気づいて視線を向けてくる者がいないのをたしかめてから、彼はまだ防弾ベストや外傷パッドを上に装着していない迷彩服の胸ポケットから白い封筒を手にして、磯部の前に差し出した。

「これを預かっていただきたいのです」

 封筒に表書きはされていない。磯部は封筒と藤平を見比べるように交互に見た上で、封筒には手を伸ばさず、代わりに隣りのソファを彼にすすめた。

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