連載小説 Δ(デルタ)(38)
2018年1月6日
【前回までのあらすじ】
秘密部隊デルタのリーダー・磯部のもとに、最年少の隊員が書置きを持ってくるが、磯部はそれを受け取らなかった。護衛艦「かが」でのあわただしい食事の後、2時間に亘る詳細なブリーフィング。本当の戦闘が間近に迫っていた。
30
「なに寝ぼけたことを言ってるんだッ!」
いつになくいらだった総理の声が執務室の空気を震わせた。その剣幕に気圧されて電話の向こうは束の間沈黙したが、やがてモニター越しに外相のゆったりとしたバリトンがすぐ眼の前で話しているかのような明瞭さで聞こえてきた。
「ですが、中国政府は強硬というより間違いなく本気です。自衛隊だろうと警察部隊だろうと、日本側が釣魚島にただの1兵でも上陸させ、銃声を1発でもさせたら、その時点で中国領土への侵略とみなし、われわれは自衛権を発動して応分の措置をとると、これが中国大使が伝えてきた、外交部長からの私へのメッセージです」
外相の田所(たどころ)は、総理に口をはさむ暇を与えないかのように言葉を畳みかけ、先を急いだ。
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