弟シェリフ(左)、兄サイードのクアシ兄弟(C)AFP=時事

 

 シェリフ・クアシは、2003年夏にファリッド・ベニエトゥーのもとに通った後、いったん姿を消した。酒と麻薬と女に溺れ、信仰を捨てたのである。しかし、改心したシェリフは、翌年秋から、再びファリッドのもとを訪れるようになった。

ユダヤ人商店襲撃計画

 シェリフは、イスラム教について何ら知識を持っておらず、信者としては初心者に過ぎなかった。一方で、自堕落な状態から逃れようともがくシェリフの姿に、ファリッドは好印象を抱いた。厳格さを追い求めたかつての自分の姿に重ね見たのである。

 シェリフは間もなく、ユダヤ人に対して憎悪を顕わにするようになった。「彼らが世界を支配している」といった口実とともに、ユダヤ系と人間関係でもめた私的な体験も作用していたようだ。ファリッドやシェリフが暮らすビュット=ショーモン公園周辺は、アラブ系とユダヤ系が共存してきた地区である。1つの街路で、サラフィー主義者のカミーズ姿と伝統的なユダヤ教徒の黒装束を同時に見かけることもある。シェリフにもファリッドにも、ユダヤ系の友人がいた。いわば彼らは、同じ空間を共有する仲間たちであるだけに、仲良くもなれば、けんかもする。そこにイデオロギーが紛れ込むと、単なるもめ事が宗教や世界観を巡る対立へとすり替えられる。

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