「手押し車の年」となったドイツ1923年

執筆者:野口悠紀雄2018年1月25日
(C)AFP=時事

 

 第1次世界大戦終戦から5年後のドイツ。1923年は「手押し車の年」と呼ばれる。パン1斤を買うにも、手押し車に札束を積んで行かなければならなくなったからだ。

 10月には、インフレ率が 2万9500%に達し、物価は 3.7日ごとに倍になった。1カ月で、物価が約 300 倍にもなってしまうのだ。

『ロンドン・デーリー・メール』は、ベルリン特派員のつぎの記事を載せていた。「昨日はハム・サンドイッチが『たった』1万4000マルクだった店で、今日は同じサンドイッチが2万4000マルクになっていた」。「しかし、幸い賃金も上がっており、閣僚の給与は、10日前の2300万マルクから、3200万マルクに引き上げられた」

 やがて物値は分単位で上がるようになり、ビールを2杯注文したら、1杯目と2杯目とでは値段が違っていた。1杯5000マルクのコーヒーが、飲み終わる頃には8000マルクになっていた。コーヒーを飲むのにトランク1杯の紙幣が必要だったのが、飲んでいる間にトランク2杯になった。レストランで食事をする人は、食事の前に料金を支払おうとした。

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