連載小説 Δ(デルタ)(41)

執筆者:杉山隆男2018年1月27日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

愛国義勇軍に乗っ取られた巡視船「うおつり」船内で、唯一自由の身の市川は、中国人兵士の張(ルールー)とともに、脱出用ボートを手榴弾で破壊することに成功する。ところがそのさなかにルールーが足首をくじいた。市川が肩をさしだした瞬間、強烈な光を浴びせかけられた。

 

     31(承前)

「銃を甲板に置いて、両手を挙げろ!」

 スピーカーから鋭い中国語が飛ぶ。命令を発した男はブリッジで監視カメラの映像を見ているのかもしれない。サーチライトを操作するレバーも放水銃などと同じコンソールにならんでいる。

 眼をしばたたかせながら何とか薄目を開けてみるものの、視界は光の直撃によってすべて白っぽく塗りつぶされている。ただその強烈な光線の向こうに、これが殺気という奴なのか、銃口を向けられているという強い気配を市川は感じとっていた。仕方なくカラシニコフと懐中電灯を甲板に置いて、市川は両手を挙げた。

 まばゆい光を背に、黒くふちどられた人間の姿が忽然とあらわれた。光の中をゆっくり近づいてくるうちに、黒い影は少しずつ薄れて像をむすび、男の顔や様子がはっきりとらえられた。

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