連載小説 Δ(デルタ)(42)
2018年2月3日

沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事
【前回までのあらすじ】
巡視船「うおつり」での愛国義勇軍に対する破壊工作を発見され、拘束された市川。彼は馬中尉なる人物から、作業用ゴムボートのありかを教えるよう強要される。もし教えなければ、人質となっている乗組員が爆殺される――。
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「『うおつり』で動きがありました」
ブザーが鳴って、テーブル中央に埋めこまれたスピーカーから、「幹部部屋」に詰めている官房副長官補の緊張した声が流れる。ほぼ同時に、総理執務室の壁面を覆った巨大スクリーンには、海自最新鋭哨戒機P1からデータリンクで送られてくるライブ映像が映し出された。暗視カメラがとらえた、つくりもののような異次元チックな映像ではない。
「うおつり」の後部甲板が、まるで野外劇場の舞台か、ナイターの試合を繰り広げているテニスコートのように、周囲の暗闇の中から明るくくっきり浮かび上がっている。
中国海、空軍の交信状況が極度に頻繁になっているという防衛省情報本部の分析をめぐる対応の協議はいったん中断し、総理以下全員の眼がスクリーンに釘づけになった。
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