多感だった自分を思い
出させる珠玉の青春小説

奥田亜希子『リバース&リバース』 新潮社/1620円 おくだ・あきこ 1983年愛知県生まれ。2013年「左目に映る星」で第37回すばる文学賞を受賞。著書に『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』などがある。

 自分の年齢を感じるのは、自分よりも若い世代と接するときだ。
 好きな食べ物や音楽、言葉使い、優先するもの……まるで違うことに少し気後れし「年齢なんて気にしたことなかったけど、もう若いとはいえない」自分を発見する。そして気づく。年を重ねても、多感だった時代の自分を心のどこかに仕舞いこんで生きている。読後、そんな過去を取り出して、ひとつひとつ確認したくなった。
 ティーン誌の編集者である菊池禄は「ろく兄(にい)」の愛称で、誌上相談室「ハートの保健室」の相談役を務めている。しかし相談者であるひとりの女子高生とのトラブルを抱えていた。また一時期より投稿数の減った相談室は終了の危機を迎えていた。
 一方、地方で暮らすティーン誌の愛読者で中学生の郁美は、東京からの転校生によって、友人との関係に変化が訪れていた。
 10代の悩みは大人から見ればささいなものが多いが、本人にとっては人生を揺るがす大事だ。
 転校生の道成の出現により、友人の明日花が自分から離れていくことを不安に思う郁美。女子高生・渚は、雑誌編集者の禄に近づけたことで、特別な自分を装うため嘘に嘘を重ねた結果、学校で浮いた存在となる。
 思春期は自分のコントロールもままならない。未熟な自分を紛らわせたのは少女漫画や小説だった。それらを読んでいる間は、名もなき不安から逃れられた。
 大人になったからといって、10代の躓(つまづ)きや失敗は消えてなくなるわけではなく、むしろ心の奥深くに根を張ってしまう。そして一番弱っているときに、その根が頭をもたげて心を大いにかき乱す。
 29歳の禄もまた、中学時代に傷つけた同級生との出来事に囚われたままだから、渚を放っておけなかった。
 本書冒頭には1つの相談とその回答が提示される。そこに小説全体を暗示する言葉がある。
 「人は、否定する側にだけい続けることはできません」
 誰もが傷つき、傷つけられる。どちらの経験もない人などいない。
 経験値が少ない浅はかな自分、他人を傷つけ謝れなかった非道な自分、忘れたい過去に追いかけられて後悔し続けている自分。忘れかけている若かりし自分を、愛おしく思い出させてくれる。一見少女向け小説だが、思春期から遠ざかった今の方が、あの頃をちゃんと見つめられる。
 珠玉の青春小説。

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