連載小説 Δ(デルタ)(43)
2018年2月10日
【前回までのあらすじ】
首相官邸の執務室では、緒方総理を中心に様々な情報の分析が行われていた。巡視船「うおつり」に残った愛国義勇軍兵士の一連の動きから、義勇軍内部が一枚岩でないことがわかる。北京が噛んでいる――それが自衛隊の出した判断だった。
32(承前)
門馬が傍らを振り向くと、内閣情報官の滝沢は目顔で了解済みのサインを送ってみせる。調別はかつての内調、日本版CIAになぞらえられる内閣調査室のコントロール下にあり、その関係は滝沢がヘッドをつとめる現在の内閣情報調査室と防衛省電波部にも引き継がれている。つまり電波部が得た極秘情報の送付リストに真っ先に名前をしるされているのが、滝沢なのである。
「北京に盾つく愛国義勇軍の中に、北京と通じているモグラがいたわけか」
総理の緒方は自ら声に出すことであらためてそこに含まれた意味を考えるように言った。
「彼らの『うおつり』乗っ取りも、センカク上陸も、北京は何もかも知っていて、ある意味やらせた。反逆者たちを泳がせたわけです。それは一連の動きを北京が利用しようとしている、何よりのあらわれでしょう」
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