自伝も出版されている(1997年)

 

『目覚めた獅子』(米川正夫『世界紀行文学全集』修道社 1971年)

 中国崩壊論が、中国の抱える問題点を正しく抉っているのか。はたまた、中国崩壊論は崩壊した、との指摘が中国の現状を捉えているのか。いずれも不明だが、双方の議論の背景に、我が国における中国との向き合い方という積年の難題が潜んでいるように思える――と、年頭に際して綴っておいたが、改めて日本人の中国認識という問題を考えてみたい。

 本来は幕末から扱うべきだろうが、取りあえず「新中国」と呼ぶようになった中華人民共和国建国以降に訪中した人々の紀行を拾い読みしながら、シリーズとして「中国について見そこないの歴史」(安藤彦太郎『現代中国事典』講談社現代新書 1972年)を振り返ることとする。

手放しの大感激

 日本人としては相当に早い時期に”新中国”を訪れた1人に、ロシア文学者で知られる米川正夫(明治24~昭和40年=1891~1965年)がいる。

 戦前の彼は、旭川第7師団や陸軍大学でロシア語教官を務め、陸大在籍時の1927年には「十月革命」10周年に招待を受けてソ連を訪問し、真珠湾で戦端が開かれた1941(昭和16)年には、「依願退職」という形で陸大を事実上解雇されている。トルストイやドストエフスキーなどの翻訳・研究の第一人者ということだが、旭川第7師団や陸軍大学でどんな教官だったのか。興味深いところだ。

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