連載小説 Δ(デルタ)(46)
2018年3月3日
【前回までのあらすじ】
愛国義勇軍に乗っ取られた巡視船「うおつり」で、市川は孤独な戦いを続けていた。ボートに大きな損傷を与えたが、船上に残った敵に捕らわれる。絶体絶命のピンチに陥ったが、一瞬の隙をついて勝負に出た。
34(承前)
官邸の総理執務室に戻った門馬を迎え入れたのは、制服の肩に金の桜を3つならべた男だった。
「テルアビブではうちの磯部をいろいろお世話してくださったみたいで……」
言いながら眼尻の皺に人の好さそうな笑みを浮かべてみせたが、門馬をみつめる、その強い眼力のある瞳の奥は少しも笑っていなかった。デルタの存在を突きとめ、秘密を明かしたことへのジャブだろう。だが、門馬も長年役人暮らしをつとめてきた男である。いかにも闊達そうな笑い声にまぎらせて言った。
「いやあ、世話と言っても磯部君にとってはありがた迷惑だったでしょう。彼の足手まといになっただけですよ」
狐と狸の化かし合い、ジャブの応酬もそこまでだった。中央のソファに陣どる官房長官の井手に、早く来るように手招きされた。
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