退くか進むかイラク「リスクオイル」争奪戦

執筆者:中嶋猪久生2008年8月号

イラクに眠る「危険な宝の山」。各国が“最後の巨大石油権益”の分捕り合戦にしのぎを削るなか、日本の現実的な選択肢とは――。「イラクは日本への安定的なエネルギー供給に不可欠のパートナーだ」 六月二十五日、イラクの首都バグダッドを訪れた甘利明経済産業相はそう強調した。数カ月前から準備してきた隠密行。マリキ首相などとの個別会談を重ねた甘利氏は、イラクを離れる直前にシャハリスタニ石油相と共同声明を発表した。石油・天然ガス技術者の育成や、最大三十五億ドルの円借款の継続、日本企業が進出するためのインフラ整備の協力――。日本が「全面的な復興支援」の見返りとして期待するのは、原油・天然ガスの確保だ。 日本だけでなく、多くの国が復興支援を申し出ているが、真の狙いはどこも同じ。混乱の大地に眠る莫大な資源の分け前だ。資源国が自国の油田・ガス田の国有化などを進める中で、イラクは逆に、外資の技術力と資金力を恃み資源開発の門戸を開いたのである。 イラクの治安は改善傾向にあると報じられている。とはいえ、散発的な自爆テロが続き、殺人や強盗事件も多発するなど、今なお不安定だ。たとえ権益を確保しても、現地で探査・開発・操業にあたる人員は危険にさらされる。原油輸入に占める自主開発油田の割合を現在の一五%から二〇三〇年に四〇%に高める目標を掲げる日本は、目の前で繰り広げられる「危険な宝の山」の分捕り合戦にどう対処すべきなのか。

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