連載小説 Δ(デルタ)(49)

執筆者:杉山隆男2018年3月24日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

市川の奮闘と海上保安庁SSTの突入で、巡視船「うおつり」での戦いは勝利に終わった。今度は秘密部隊デルタの、センカクでの戦いが始まろうとしていた。

 

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 闇の底に沈む島に、突然、照明弾が立てつづけに6発、マグネシウムの強烈な光を放って、あたりを真昼の明るさに一変させた。

 劇的と言うなら、これ以上度肝を抜く演出はなかったし、視覚効果は世界のクロサワでも息をのんだに違いないほど圧倒的だった。奇襲のはずなのに、わざわざ襲撃を告げる照明弾を、これでもかと嵩にかかったように間髪いれず撃ちこんだのは、敵の殲滅より、彼らを一刻も早く島から退去させることにセンカク上陸作戦の最大の目的があったからだ。

 それに、磯部たちと同じく暗視ゴーグルをつけている兵士が愛国義勇軍の中にいたら、不意打ちの明るさに一瞬眼がくらみ、動きを封じられてしまうという読みもあった。暗闇の中でいきなり懐中電灯を向けられたのと同じで、眼が慣れるまで動くに動けない。ほんのわずかであっても磯部たちにとっては時間を稼げる間となる。その間に少しでも前進して敵の配置をうかがい攻撃の陣容を整えることはできる。

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