NGOが「国家まさり」の力を発揮する時代

執筆者:斎藤義彦2008年8月号

 航空機から投下されたり地上から発射される「親爆弾」が空中で分解、数百個の「子爆弾」を吐き出し、広範囲の目標を攻撃する。戦時中だけでなく戦後も不発弾が市民に死傷者を出している「クラスター爆弾」を事実上全面禁止する条約案が、今年五月、日英独仏など百十一カ国の賛成で採択された。条約案は十二月にノルウェーの首都オスロで署名され、三十カ国が批准すれば発効する。近年では珍しい軍縮の成功例だ。 立役者は「クラスター爆弾連合(CMC)」。八十の国の二百五十以上に及ぶNGO(非政府組織)の連合体が、国家と対等以上の仕事を成し遂げた。 CMCが、禁止に反対し続ける米露中など大国を見限り、ノルウェーなど有志国と連携して軍縮交渉「オスロ・プロセス」を開始したのは昨年二月のことだ。初回の舞台は雪が降りしきる厳寒のオスロ。各国の外交官やNGOの代表らが雪遊びに興じる姿に、政府・非政府の壁は感じられなかった。会議ではCMCが多くの場面で仕切り役として登壇。ノルウェーとCMCは期間中、秘密の準備会合を繰り返した。会議で採択された宣言文も、大国の代表より先にNGOが事前に目を通していた。「元々ノルウェーには政府とNGOの垣根はない」。ノルウェー政府関係者はそう話す。例えばイゲランド国連事務総長特別顧問(元国連事務次長)だ。人権団体を経てノルウェーの副外相となり、さらにノルウェー赤十字の総裁を務めた。公的組織とNGOの間を行き来するのはごく普通だ。別の政府関係者は「政府はどうしても官僚的になり、行動が遅い。一方、NGOは医療などさまざまな分野ですぐ動ける」と協力の意義を語る。彼女は、国際会議の席で隣り合った日本政府代表が本国との連絡に四苦八苦した末になかなか態度を決められない例を引き、「ノルウェーがすばやく行動できるのはNGOとの交流があるから」と話す。

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